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三沢かずこ展

青を拓く

 

青の世界を追究する画家 三沢かずこさんの展覧会が神戸・ハンター坂のギャラリー島田で開かれました(2023年9月30日~10月11日)。
海外でも知られる「MISAWA BLUE」の呼び名から青の階調に覆われた画面を想像するなら、そこここに赤や黄のような色が、決して小さくはない存在感をもちつつ置かれているのを意外に思うかもしれません。むしろ青とそのほかの色彩が独自の緊張関係にある、その他なる色への関わりの特異さに MISAWA BLUE の神髄はあるようです。
近年、越前和紙との出会いが、その世界にさらなる深みをもたらしました。ほぼ2メートルという縦長の和紙に描かれた「生きる」シリーズの一点は、ニュアンスに富んだ臙脂(えんじ)色が、青の表面とも底ともつかず、霞のように、あるいは暁光に照り映える波のようにただよっています。

 


あざやかな赤がその情熱を青に押し込め抑制されて臙脂となった、というよりこれは、青という色がもつ秘めた情熱、熾火のように脈動するその暗い衝動が、青を拓(ひら)く画家の筆でいま露わにされたようではないでしょうか。
MISAWA BLUEとは他なる色を内に孕み、また、そのような他なる色によって形づくられる青の名です。
非-青を生み出し、かつ、非-青によって生み出される青。
三沢さんの青といって、真っ先に浮かぶ青をあえて絵具の色の名で呼べば、群青色でしょうか。
それはこれから秋、そして冬と深まっていく神戸の海の色?
いえ、神戸に住んで長い作家ではありますが、むしろそれは生まれ故郷の信州の風の色ではないかと、そんなことを思うのです。
あの高くそびえる山々から吹き降ろしてくる風は、深山の木々のあいだを、土と岩の上を吹き抜けながら深く山の色に染まり、また野を吹き渡りながら、その色で里や街を淡く染めていく。人が風土と呼ぶのはそのような色のことでしょう。
風は秘められた言葉で奥深い山の消息を里に伝える。
もし風を嗅ぎ、肌に感じ、瞳を閉じて目を凝らすなら、その風の色のなかには露をたたえた下草の緑が、人知れず色づくもみじの赤が、岩肌の冷たい輝きが潜んでいることでしょう。
いつか画家はそのことを知ったのでしょう。
画家の額と頬に、そのとき、こんなにも深く青い色をした風が触れた。

 

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山本忠勝(シュプリッターエコー顧問、元神戸新聞文化部)による2010年の三沢かずこさんの展覧会評「青の乱」をこちらのリンクからお読みいただけます。

山本貴士

 

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